前駆体PFASとは?特徴や問題点、分析方法について

投稿日:2024年12月16日(2026年9月9日更新)

【この記事のポイント】

  • PFAS前駆体とは、PFOAなどの安定性が高いPFASへ変化し得るPFASの一群
  • 前駆体は種類が多く、通常のターゲット分析では評価が難しい場合がある
  • TOP Assayなどの評価手法や、PFAS関連物質の規制動向に注意が必要

 

PFAS(有機フッ素化合物)の一部には、環境中や処理過程などで別のPFASへ変化し得る「前駆体」と呼ばれる物質があります。

前駆体は、個別物質を対象とする通常の分析では把握が難しい場合があり、PFASの実態調査や将来的なリスクを評価するうえで、考慮すべき論点の一つとされています。

本記事では、PFAS前駆体の基本的な考え方や、通常の分析で捉えにくい理由、前駆体を酸化処理によって評価するTOP Assayを用いた分析方法について解説します。

あわせて、PFAS前駆体や関連物質をめぐる国内外の規制動向についても整理します。

 

 

前駆体のPFASについて

OECD(経済協力開発機構)では、PFAS(Per- and Polyfluoroalkyl Substances)を、少なくとも1つの完全にフッ素化されたメチル基又はメチレン基を含むフッ素化物質と定義しています。

PFASには、PFOS、PFOA、PFHxSのように化審法(化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律)の第一種特定化学物質に指定され、製造・輸入等が原則禁止されている物質のほか、環境中や処理過程などでこれらの規制対象のPFASへ変化し得る物質も存在します。

このような物質は、PFAS前駆体として扱われることがあります。

なお、PFASの基本的な特徴や代表的な規制物質、国内外の規制動向については、以下の記事で詳しく解説しています。

 

 【関連記事】PFAS(有機フッ素化合物)とは?特徴から問題点、規制の最新動向まで

 

前駆体とは?

前駆体とは、化学反応を経て別の物質へ変化する前段階の物質を意味します。

PFASにおける前駆体も同様に、環境中や処理過程で酸化・生物変換などの反応[1] [2] を受け、PFOAやPFOSなどの安定性が高いPFASへ変化し得る物質を指します。

前駆体から生じるPFASの種類は、元の物質の構造や反応条件によって異なります。

PFAS前駆体には、撥水・撥油剤や防汚コーティング剤などに関連する化合物が含まれます。こうした物質は、工業用途をはじめ、様々な製品に関係してきました。

変化後のPFASは、元の前駆体と同じ炭素数の物質になる場合もあれば、より炭素鎖の短いPFASになる場合もあります。

 

PFAS前駆体の例 変化により生成し得るPFASの例
FTOH(フルオロテロマーアルコール類) PFCA類
(ペルフルオロアルキルカルボン酸類。※PFOAなど)
FASE(ペルフルオロアルカンスルホンアミドエタノール類) PFSA類
(ペルフルオロアルカンスルホン酸類。※PFOSなど)

 

通常の分析で前駆体を捉えにくい理由

PFAS分析では、特定の物質をあらかじめ測定対象として設定し、LC-MS/MSなどを用いて定性・定量するターゲット分析が広く用いられています。

ターゲット分析は、PFOS、PFOA、PFHxSなど、測定対象として設定された既知のPFASを高感度に分析できる一方で、原則として対象物質を個別に評価する方法です。

そのため、測定対象に含まれていないPFASや、標準物質が整備されていないPFASについては、通常のターゲット分析だけで把握することが難しい場合があります。

PFASの存在実態を評価する際には、ターゲット分析で把握できる範囲を理解したうえで、目的に応じてTOP Assayや総有機フッ素分析などの包括的な評価手法を組み合わせることが重要になります。

 

なぜ前駆体も考慮すべきなのか?

PFAS前駆体は、環境中や処理過程などでPFOAやPFOSなどのPFAA類(ペルフルオロアルキル酸類)へ変化し得る可能性があります。

たとえば、PFOAをモニタリングしている環境中や処理過程の中に、PFOAへ変化し得る前駆体が存在する場合、将来的にPFOAに変換され、濃度が上昇する可能性があります。しかし、PFOAのみの測定では、このような前駆体の存在までは把握できない場合があります。

前駆体の研究は進んでいるものの、数が多すぎてターゲット分析は事実上不可能な上、いまだ構造や変換経路が十分に明らかでないものも多数存在すると考えられます。

このような理由から、PFASを含む原材料や製品、排水、廃棄物などを評価する場合には、現時点で測定・規制の対象となっているPFASだけでなく、将来的に別のPFASへ変化し得る前駆体の存在も考慮することが重要となる場合があります。

 

 

前駆体を分析する方法

PFASを分析する方法については、国内外で開発が進んでいます。

当サイト「PFAS MEDIA」の監修者による論説「地下水・土壌汚染に対するPFAS分析の現状と展望」では、PFAS分析法を目的や測定可能な範囲に応じて、大きく4つに分類しています。

分析の種類 概要
ターゲット分析 あらかじめ測定対象とするPFASを設定し、液体クロマトグラフィー(LC)やガスクロマトグラフィー(GC)で分離したうえで、
質量分析(MS)により定性・定量する方法。
PFAS分析では、LC-MS/MSを用いる方法が主流とされる。
ノンターゲット分析または
サスペクトスクリーニング
設定した項目のみを測定するのではなく、質量分析計を用いて検出されるピークを広く確認する方法。
データベースとの照合などにより、既知の懸念物質の定性、構造推定、半定量などに用いられる。
TOP Assay 酸化剤を用いてPFAS前駆体をPFCAsやPFSAsなどの測定可能な物質へ変換し、
酸化処理前後の濃度差から前駆体に由来する潜在的なリスクを評価する方法。
TF分析 燃焼イオンクロマトグラフィー(C-IC)を用い、フッ素化合物を燃焼させてフッ化物イオンとして定量する方法。
未知のPFASを含め、有機フッ素化合物がどの程度存在するかを評価する手法として注目されている。

参考:地下水・土壌汚染に対する PFAS 分析の現状と展望|野島智也・関友博|地下水学会誌68巻第1号|J-STAGE

 

これらの分析法のうち、PFAS前駆体の評価に用いられる代表的な手法の一つが「TOP Assay(Total Oxidizable Precursor Assay)」です。TOP Assayは、Houtz and Sedlakによって2012年に報告された前駆体分析の手法を基に、各国で研究が進められています。

 

参考:Oxidative conversion as a means of detecting precursors to perfluoroalkyl acids in urban runoff|Erika F. Houtz, David L. Sedlak|2012|PubMed|National Library of Medicine

 

TOP Assayの特徴

出典:[Lange FT et al., Trends in Environmental Analytical Chemistry, 2024][CC BY 4.0]一部改変して作成

 

TOP Assayは、酸化剤を用いてPFAS前駆体をPFCA類やPFSA類などの測定可能なPFASへ変換し、LC-MS/MS(液体クロマトグラフィータンデム質量分析法)などで測定する方法です。

一般的には、酸化処理前後の試料をそれぞれ測定し、処理前後の濃度差を確認することで、前駆体に由来する成分の存在を間接的に評価します。通常のターゲット分析では捉えにくい前駆体についても、潜在的な存在量を推定できる点が特徴です。

EU飲料水指令に基づく技術ガイドラインでも、「PFAS Total」を評価するための代理測定法の一つとして位置付けられています。

また、ドイツでは2024年に土壌試料などの溶出液を対象として、酸化処理後にLC-MS/MSでPFCA類を測定するTOP Assay関連の規格「DIN 3608:2024-08」が発行されており、海外でも前駆体評価に関する手法として検討・規格化が進められています。

 

TOP Assayの注意点

TOP AssayはPFAS前駆体の評価に有用な手法である一方、すべてのPFASを正確に定量できる方法ではありません。

酸化反応を利用する手法であるため、酸化剤の種類、反応時間、pH、温度などの条件によって、前駆体の変換効率や生成物が変動する可能性があります。

また、試料中に酸化されやすい有機物などが多く含まれる場合、酸化剤が消費され、前駆体の酸化反応が十分に進まないこともあります。

酸化処理後の試料に含まれる塩類などにより、固相抽出(SPE)の効率が低下したり、LC-MS/MS測定時にマトリックス効果が生じたりする点にも注意が必要です。

 

【関連記事】マトリックス効果とは?仕組みと分析への影響、PFAS分析での注意点

 

さらに、TOP Assayでは、酸化後に生成されるPFCA類などを通じて前駆体の存在を評価するため、個々の前駆体を直接特定することは困難です。そのため、分析結果を解釈する際には、反応条件、前処理条件、試料の性状を踏まえる必要があります。

TOP Assayは、前駆体に由来する潜在的なPFASの存在を把握するための補助的な手法です。分析目的に応じて、ターゲット分析や総有機フッ素分析など、ほかの手法と組み合わせて検討することが重要です。

 

 

国内の前駆体・PFAS関連物質の規制動向

PFAS前駆体に該当する可能性がある物質は、国内法令では主に「関連物質」として規制対象に含まれています。

特に、POPs条約(残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約)で附属書A(廃絶)の対象に追加された物質群については、日本でも化審法に基づく第一種特定化学物質への指定が進められています。

2026年5月時点で確認しておきたい主な動向は、以下の通りです。

対象 国際動向 国内の対応
PFOA関連物質 2019年、POPs条約で「PFOAとその塩及びPFOA関連物質」が
附属書A(廃絶)に追加。
2024年の政令改正により、PFOA異性体又はその塩は2024年9月10日、
PFOA関連物質は2025年1月10日に、化審法の第一種特定化学物質として順次指定・施行。
PFHxS関連物質 2022年、POPs条約で「PFHxSとその塩及びPFHxS関連物質」が
附属書A(廃絶)に追加。
2025年、PFHxS関連物質を化審法の第一種特定化学物質に追加指定する政令が閣議決定。
2026年6月17日の施行が予定されている。
長鎖PFCA関連物質 2025年、POPs条約で「長鎖ペルフルオロアルカン酸(LC-PFCA)と
その塩及びLC-PFCA関連物質」が附属書A(廃絶)に追加。
2026年、長鎖ペルフルオロアルカン酸とその塩、ならびに長鎖PFCA関連物質を化審法の
第一種特定化学物質に追加指定する政令が閣議決定。全面施行は2026年11月22日予定。

 

化審法の第一種特定化学物質に指定された物質は、製造・輸入が原則禁止されるほか、政令で指定された製品の輸入禁止、取扱いに係る基準などの規制対象となります。

国内のPFAS規制は、PFOS、PFOA、PFHxSといった個別物質だけでなく、関連物質や長鎖PFCA関連物質にも広がっています。

PFASを含む原材料、製品、排水、廃棄物などを扱う場合には、現時点で規制対象となっている物質だけでなく、今後指定が進む関連物質の範囲も確認する必要があります。

 

 

PFAS前駆体をめぐる今後の動向

PFAS前駆体は、化学反応を経て別のPFASへ変化し得る物質です。

一部の前駆体や関連物質は、POPs条約や化審法の枠組みでも規制対象に含まれつつあり、今後のPFAS管理や環境評価を考えるうえで重要な論点となっています。

一方で、PFAS前駆体は種類が多く、環境中での変化過程や挙動、分析・評価方法については、現在も国内外で研究や議論が進められている段階です。

現時点では一律の対応が難しい部分もあるため、関連物質の指定状況、分析手法の進展、各国の規制動向を継続的に確認していくことが重要です。

 

 

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記事の監修者

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ユーロフィン日本環境株式会社 横浜PFAS事業部 PFASグループ 研究開発チーム Specialist 野島 智也

<経歴>

2012年 筑波大学 理工学群 化学類 卒業
2014年 筑波大学 数理物質科学研究科 化学専攻 博士前期課程 修了
2014年にユーロフィン日本環境株式会社入社し、ダイオキシン分析に従事。

2020年からは有機分析チームの分析要員としてPFOS・PFOA分析の立ち上げに従事し、その後、R&Dグループとして国内の分析法、EPA法、ISO法等を立ち上げる。

2023年には独自法による排ガス中のPFAS一斉分析法を立ち上げる。

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