マトリックス効果とは?仕組みと分析への影響、PFAS分析での注意点

投稿日:2026年5月1日

試験管とピペット

【この記事のポイント】

  • マトリックス効果は、共存成分の影響で分析値が過小または過大にぶれる現象
  • 特にLC/MS法では、イオン化の段階で信号抑制や信号促進が起こりやすい
  • PFAS分析でも定量の信頼性に関わるため、試料特性の把握と事前確認が重要

化学物質などの分析では、目的とする成分以外の共存成分(マトリックス)による影響で、分析結果が過小あるいは過大になることがあります。

この現象はマトリックス効果とよばれ、特にLC/MS法においては、イオン化の段階で生じやすい問題として知られています。

本記事では、マトリックス効果の基本的な仕組みを整理したうえで、分析結果への影響や、評価・対策の考え方について解説します。

あわせて、PFAS分析で押さえておきたい影響や、分析前に確認すべきポイントについても紹介します。

 

 

マトリックス効果とは?

マトリックス効果の影響

JIS(日本産業規格)の分析化学用語では、マトリックス効果は、試料中に含まれる目的成分以外の共存成分の影響によって、分析で得られる信号などが変化する現象と定義されています。

マトリックス効果は、特にLC/MS法やLC/MS/MS法、GC/MS法などで、分析値が過小または過大になる要因として問題になることがあります。これは、イオン化の段階でマトリックスの影響を受け、信号が抑制または促進されるためです。

試料中に夾雑(きょうざつ)物質が多い場合は、マトリックス効果によって同じ条件で分析しても結果が異なるなどの現象が生じやすくなるため注意が必要です。

夾雑物質とは?

分析対象の成分以外で試料中に含まれている成分のこと。たとえば、塩類や有機物、脂質などが該当します。これらの成分が分析時の信号に影響すると、目的成分を正確に測定しにくくなる場合があります。

 

 

分析でマトリックス効果が起こる理由

検査結果の確認

分析でマトリックス効果が生じる主な理由は、以下の3つです。

  • ESIで共存成分の影響を受けやすい
  • マトリックスが多様で共溶出の影響を受けやすい
  • 低濃度定量では信号変動が結果に直結しやすい

 

ESIで共存成分の影響を受けやすい

ESI(Electrospray Ionization:エレクトロスプレーイオン化)とは、LC/MS法やLC/MS/MS法を用いた質量分析で広く利用されているイオン化法の一つです。

この方法では、高電圧をかけて試料溶液を帯電した液滴として噴霧し、液滴の気化に伴ってイオンを生成します。
このESIのイオン化効率に影響を与えやすいのが、試料中に含まれるマトリックスです。目的成分とマトリックス成分が競合すると、信号が抑制または促進され、分析結果が過小または過大になることがあります。

 

マトリックスが多様で共溶出の影響が出やすい

分析試料は、環境水や土壌、食品、生体由来のものまで幅広く、有機物や塩類、脂質、界面活性剤など多種多様な成分を含んでいます。

このように性質の異なるマトリックス成分が複数含まれていると、目的成分だけを完全に分離することが難しくなり、共溶出の影響が生じやすくなります。

また、試料ごとにマトリックスの組成が異なるため、同じ成分を分析する場合でも、受ける影響の程度は一律ではありません。こうした変動性の高さも、分析結果の解釈を難しくする要因の一つです。

 

低濃度定量では信号変動が結果に直結しやすい

たとえばPFAS分析では、ng/Lなどの低濃度域で評価されるケースが多くあります。こうした低濃度域の分析では、わずかな信号変動でも濃度のずれとして表れやすくなります。

そのため、マトリックス効果による信号の抑制や促進は、算出濃度の誤差に直結しやすく、定量下限や再現性にも影響を及ぼします。結果として、試料間や測定条件間のばらつきを招く要因になり得ます。

特に低濃度を扱う分析では、わずかな影響でも結果の解釈に差が生じやすいため、マトリックス効果を踏まえた評価が重要です。

 

コラム:分析で結果が乱れるその他の要因

分析結果が乱れる要因は、マトリックス効果だけではありません。代表的なものとして、コンタミやキャリーオーバーなどが挙げられます。

コンタミは、コンタミネーション(Contamination)の略で、分析時に外部から異物が混入したり、汚染が生じたりすることを指します。たとえば、試薬の調製や保管の工程、器具や装置の取り扱い、作業環境などが原因となり、分析結果に影響を及ぼすことがあります。

マトリックス効果と混同されやすいものの、両者は性質の異なる問題です。マトリックス効果が試料にもともと含まれる共存成分の影響によって生じるのに対し、コンタミは分析工程で外部から不要な物質が混入することで生じます。

そのため、コンタミが発生すると、結果のずれの原因がマトリックス効果によるものなのか、外部混入によるものなのかを切り分けにくくなるおそれがあります。

また、装置内に残った前の試料成分が次の分析に持ち越されるキャリーオーバーも、分析結果が乱れる要因の一つです。

こうした影響を確認し、安定した結果を得るためには、目的成分を含まない試料であるブランクを用いて妥当性を確認することが重要です。ブランクの測定結果を適切に確認し、汚染や異常の有無を管理することが、分析精度の確保につながります。

 

 

マトリックス効果によるPFAS分析への影響

PFAS検査

マトリックス効果は、PFAS分析においても定量の信頼性に影響を及ぼす要因の一つです。

環境省が示しているPFASの分析法でも、LC/MS法やLC/MS/MS法が用いられており、定量結果に影響し得る要素への配慮が求められています。

たとえば、以下のような影響が生じるおそれがあります。

  • イオン化抑制による過小評価
  • イオン化促進による過大評価
  • 信号強度の変動による検体間比較や再現性確保への影響


これらは分析の信頼性や精度管理に関わるため、PFAS分析においてもマトリックス効果への対応は重要です。環境省の関連資料でも、サロゲートや内部標準を用いた定量、回収率の確認など、精度管理に関する考え方が示されています。(※)

そのため実務では、試料ごとの特性を踏まえながら、前処理や内部標準、回収率の確認などを通じて、マトリックスの影響を適切に評価・管理することが重要です。

(※)土壌中のPFOS、PFOA及びPFHxSに係る暫定測定方法(溶出量試験、含有量試験)|環境省

 

 

PFAS分析でマトリックス効果が生じやすい具体例

PFAS分析に用いられる試料は、環境水、水道水、土壌、生体由来試料などさまざまであり、それぞれ異なるマトリックスを含んでいます。また、PFASは種類が多く、構造や性質も多様であることから、マトリックスによる影響は一律ではありません。
 
マトリックス効果に注意が必要な例として、生体由来の試料が挙げられます。

PFASの残留には特定のタンパク質との結合が関与するとされており、生体由来試料では、前処理やクリーンアップが不十分な場合に、イオン化抑制などが生じて分析精度に影響する可能性があります(※)。

(※)フィールドモニタリングから見るPFAS汚染の現状:国内外の動向と日本における今後の課題|野見山桂|機関誌「環境化学」36巻|J-STAGE

 

 

企業担当者が分析前に確認すべきポイント

チェックリスト

分析を行う際に、事前に確認しておきたいポイントは主に次の2つです。

  • 分析目的の明確化
  • 分析試料の性質把握

分析には、スクリーニングを目的とした概算的な分析と、証明などを目的とした公定法準拠の分析があります。まずは、どのような目的で分析を行うのか、どの程度の精度が求められるのかを明確にすることが重要です。

あわせて、分析結果の許容範囲をあらかじめ整理しておくことで、結果の解釈や判断もしやすくなります。

また、地下水や水道水、土壌など、試料ごとの性質や共存物質の有無を事前に把握しておくことは、マトリックス効果の影響を見極めるうえで有効です。

こうした確認には、過去の分析データに加え、公的機関や調査機関が公表しているデータを参照する方法があります。

 

 

判断に迷う場合は専門の分析機関への相談もあり

検査風景

試料分析を必要とする企業にとって、マトリックス効果の有無や影響の大きさを自ら評価することは難しい場合があります。

判断に迷う場合は、試料に応じた前処理や内部標準の設計、評価方法の選択などについて、分析機関に相談するのも有効です。

PFAS分析については、農林水産省が食品中のPFASの受託分析を行っている分析機関の一覧を公開しており、同省のホームページから確認できます。

参考:食品中のPFASの受託分析を行っている分析機関一覧(五十音順、農林水産省調べ|農林水産省

ただし、食品はあくまで一例であり、自社で分析したい試料に応じて、適切な分析機関を検討・選定することが重要です。

なお、ユーロフィンも同一覧に分析機関の一つとして掲載されています。PFASに関する分析サービスについて詳しく知りたい方は、こちらの記事も参考にしてください。

 

【関連記事】PFAS検査サービスの種類を解説|検査項目数や分析法について
検査風景

 

 

マトリックス効果を理解して正確な分析を

マトリックス効果は、試料中に含まれる目的成分以外の共存成分によって、分析結果に影響が及ぶ現象です。

LC/MS法やLC/MS/MS法を用いた分析では、イオン化効率に影響することがあり、分析結果の過小評価や過大評価につながるおそれがあります。

分析精度を高めるためには、マトリックス効果への対策が重要です。一方で、その影響の評価や対策の検討は、自社だけでは難しい場合もあります。

マトリックス効果に加え、コンタミなども含めて精度の高い分析が求められる場合は、必要に応じて専門的な知見をもつ機関へ相談するのも一つの方法です。

分析試料の特性とマトリックス効果を正しく理解し、信頼性の高い分析につなげましょう。

 

 

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