OECDとPFAS規制の関係性は?最新レポートからわかる世界の動き

投稿日:2025年12月15日

PFAS(有機フッ素化合物)は、自然界で分解されにくい性質を持つことから、環境中に長期間残留することが世界的に問題視されています。

現在の技術では、すでに環境中に存在するPFASを完全に除去するのは困難です。そのため、PFAS問題の解決へ向けて、革新的な科学技術を用いた除去方法の開発と普及が求められています。

本記事では、OECD(経済協力開発機構)が公開した最新レポートをもとに、PFASを含む廃棄物の処理に関する最先端技術の動向を紹介します。

 

 

OECD(経済協力開発機構)の役割とPFASとの関係性

OECD(経済協力開発機構)は、持続可能な経済成長や自由貿易、雇用創出、生活水準の向上といった国際的な課題に取り組む多国間の枠組みであり、日本を含む38の加盟国が参加しています。

各国政府が政策を立案・調整する際の共通基盤として、調査研究やガイドラインの策定を通じて実践的な支援を行っていることが特徴です。

環境分野においては、化学物質管理やサステナブルケミストリーの促進を目的に、様々な科学的知見と政策ツールを提供しており、特にPFASに関しては早くから国際的な問題提起を行ってきました。

具体的には、PFASの分類・命名に関する統一的なアプローチや、含有製品・廃棄物の取り扱いに関する手法の確立、代替物質の入手可能性、リスク評価に関する報告書の作成などを行い、各国が規制や政策を検討する際の科学的根拠と方向性を示すことで、政策立案や技術支援を促しています。

 

 

OECD最新レポートの内容

PFASのように分解が困難な化学物質を含む廃棄物に対応するためには、ET(Emerging Techniques:革新的な新興技術)の導入が不可欠です。ETとは、将来的に商業化されることでBATを上回る環境保護効果やコスト効率を発揮する可能性を持つ技術を指します。

2025年4月、OECDはPFASを含む廃棄物処理に関する最新レポートを公開しました。

このレポートでは、中国やEU、米国など7つの国と地域のBAT(最良利用可能技術)に関する取り組みを比較し、各国が新興技術をどのような基準で特定・評価しているかがまとめられています。

 

BAT(最良利用可能技術)とは

BAT(Best Available Techniques)とは、産業活動による大気・水・土壌などへの環境負荷を最小限に抑えるために導入される「現時点で最も効果的かつ実行可能な技術」を指しています。

技術的な成熟度だけでなく、経済性・実現可能性・普及状況なども考慮され、現場レベルで実装できることを前提としています。

EUでは、BATの定義に基づき、BATリファレンス文書(BREF:Best Available Techniques Reference Document)が作成され、各産業セクターごとに適切な排出基準や管理手法が定められています。BREFは許認可の根拠として使用され、企業の排出許容量や設備更新の基準となる仕組みです。


参照 :EIPPCB BAT Reference Documents (BREFs)|European Commission

※BREFはEU産業排出指令(IED)に基づき作成されており、新技術(ET)の評価結果が順次反映されます。掲載されるBAT結論は法的拘束力を持ち、各国の排出許可の基準となります。

 

OECDは、このBATアプローチを環境規制の国際的な基準として位置付け、各国の導入と国際的な整合を後押ししています。

 

ET(革新的な新興技術)が求められる理由

廃棄物に含まれるPFASは極めて安定した化学構造を持つため、従来の処理技術では完全に除去することが難しいのが現状です。この課題に対し、OECDは将来のBAT更新を見据えて、ETの早期特定と評価を制度的に進めることの重要性を示しています。

ETが今後のBATに組み込まれることを見据えて、TRL(Technology Readiness Level:技術成熟度)や、実証データの有無を踏まえた段階的な特定・評価が進められています。

また、各国がどのようなプロセスでETを把握し、政策や技術文書に組み込んでいるかが比較されており、 PFASのような難分解性物質への対応では特に重要性が強調されています。

実際にOECDレポートでは、PFASの廃棄物処理に対応するためのETとして、分解型吸着材や高温プラズマ処理、電気分解法、改良型焼却技術などが各国で研究・試験されている事例が紹介されています。

 

 

2026年以降の水道法によるPFAS規制

この章では、2025年4月にOECDが公開したレポート「A global study on approaches for identifying innovation and emerging techniques for potential Best Available Techniques (BAT) determination」の情報から、各国で行われている最新の事例研究を紹介します。

 

米国

米国では、PFAS対策ロードマップに基づき、EPA(米国環境保護庁)を中心に排出・汚染の防止や修復を目的とした技術開発が進められています。特に分野別・媒体別に技術基準や排水基準の見直しを行い、ETの導入を積極的に推進中です。

OECDのレポートでは、米国のバイオソリッド処理技術や下水処理・雨天時対策におけるET活用などが紹介されています。

特に注目されているのが下水処理場におけるPFAS削減に向けた技術で、実際にEPAのガイダンスでは以下の技術が評価対象として位置づけられており、実証段階に入っている事例も報告されています。

  

  • electrochemical oxidation(電気化学酸化)
  • mechanochemical degradation(メカノケミカル分解)
  • gasification / pyrolysis(ガス化・熱分解)
  • supercritical water oxidation(超臨界水酸化)

参照:Interim Guidance on the Destruction and Disposal of PFAS and Materials Containing PFAS(2024)|EPA

 

また、米国では新技術の導入に向けた連邦政府支援制度も活用されており、PFAS除去技術の普及に予算が充てられています。一例として、EPAのSBIR(Small Business Innovation Research)プログラムでは、PFASの検出・処理技術を開発する小規模企業への助成金が出されています。

 

EU

EUではPFASを含む汚染物質への対応として、ETに関する情報収集と制度整備が進められています。これらの技術は、BREFに段階的に反映され、将来的なBATへの昇格も視野に入れた運用が行われています。

2024年に改正された産業排出指令(Industrial Emissions Directive:IED 2.0)では、ETをベースにした排出限界値(ET-AELs:Emerging Technique–Associated Emission Levels)を暫定的に設定できる制度が導入されました。

これは、最新技術を即時に厳格な排出基準として適用するのではなく、実証段階にある技術を規制枠組みの中で試行的に位置づけ、評価を可能とするための柔軟な仕組みです。

さらに欧州委員会は、PFASを含む環境課題に対応する革新的技術の情報収集・評価を行う組織「産業変革・排出インサイトセンター(INCITE)」を2024年に設立。BREF改訂への反映や規制の先取り支援を進めています。

INCITEはエネルギー多消費型産業(EII)を優先対象とし、各業種の脱炭素・汚染防止ロードマップと整合を図るスコアボードを開発中です。

※EII(エネルギー多消費型産業)とは、EUで一般に鉄鋼、セメント、化学、製紙、ガラス、精錬など、大量のエネルギーを使用する産業分野を指します。

 

イギリス

イギリスでは、業種ごとにBATの見直しを行う中で、PFASに関連するETの特定と導入が進められています。

EUのようにET専用の排出限界値は制度化されていないものの、環境許可制度の運用を通じて柔軟な対応が取られています。EU離脱後の独自制度であるELVs/AELs(Emission Limit Values / Associated Emission Levels:排出限界値/関連排出レベル)によって、施設単位で個別設定する方式が採られています。
※ET-AELs(EU) は新興技術を制度内で試験導入するための暫定的排出基準、ELVs(イギリス) は通常の排出限界値を施設ごとに許可制で設定するものであり、制度的な位置づけが異なります。

ET導入に関しては、環境規制当局が技術ガイダンス文書を作成し、一定数の施設での実績や実証データが揃った段階で、許認可判断に反映される仕組みをとっています。

これにより、まだ普及途上の技術においても、状況に応じて導入と環境影響評価が可能となっています。

PFAS対策の分野では、地下水や土壌におけるPFAS汚染そのものが主要な課題とされており、これらを対象としたレメディエーション技術(修復技術) の実証試験が重点的に進められています。

国内では現場条件下での適用性や削減効果を確認するためのパイロット試験が複数実施されており、試験データをもとに技術ガイダンスを反映する仕組みが整えられています。

 

ベルギー

ベルギー(フランデレン地域)では、ETの評価にあたって、TRL(技術成熟度)やBAT適合性に基づく段階的な判断が行われています。

しかし、技術の多様性や適用現場の条件差が大きいため、一律のBAT基準設定は難しいとされており、施設単位での許可判断と柔軟な排出限界値(ELV)設定により対応が図られています。

制度面では、フランデレンBATセンター(VITO)や、フランデレン起業・革新支援機構(VLAIO)が中心となり、ETの調査・分類・技術支援を実施しています。

2024年からは「革新的浄化技術知識センター」も新設され、PFASを含む水質・大気中汚染の除去技術に関する支援体制がさらに強化されています。

 

韓国

韓国では、PFAS対策の制度整備に向けた初期段階として、K-BREF(韓国版BREF)事務局が中心となり、産業施設におけるPFASの排出実態調査を進めています。

調査では、PFASの排出媒体(大気・水・土壌)や経路、排出濃度などの把握が目的とされており、今後の技術評価制度の基盤となることが期待されています。

レポートが公開された2025年4月時点では、ETの特定方法や評価指標、BATへの統合プロセスについては公式な方針が明示されておらず、ET導入に関する制度運用は未確立の状態です。

今後は、調査結果を踏まえてETの定義や技術的な選定指針が策定される可能性があり、PFAS規制強化と並行して制度設計が進展していくと予想されます。

 

 

OECDのレポートで世界の最新動向を確認する

PFASは極めて分解されにくい特性を持つため、環境への対策には技術的に高いハードルが存在します。既存技術だけでは長期的な環境負荷の低減が難しく、将来のBAT更新に向けて有望なETを早期に発掘・検証することが不可欠とされています。

ETの研究・実証を進めることで、より安全で持続可能な処理技術の選択肢を拡充し、環境保護と産業活動の両立を図ることが期待されています。

OECDの最新レポートでは、EU・米国・イギリスなどの主要国で、ETに関する技術ガイダンスの整備、実証試験の支援、環境許可制度の柔軟運用、さらにはET-AELsのような制度内での試験的運用の仕組みが進んでいることが整理されています。

排出基準そのものは原則として毒性評価に基づき設定されますが、ETを制度の中で評価・検証するための枠組みが整備されている点が各地域の共通した動向です。

こうした国際的な動向を理解しておくことは、PFAS対策に取り組む企業や自治体にとって、自社技術の戦略的活用や将来的な制度対応を準備するうえで重要な判断材料となります。

OECDのレポート内容を参考に世界の最新動向を把握し、戦略的な技術選定・制度対応にお役立ていただければ幸いです。

 

 

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記事の監修者

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ユーロフィン日本環境株式会社横浜PFAS事業部 PFASグループ 研究開発チーム 技術顧問 関 友博

<経歴>

1986年 岩手大学農学部農芸化学科卒業
大学卒業後、青年海外協力隊としてケニアに赴任し、大学で食品分析を教える。

1990年 株式会社カナポリ入社(後の日本環境株式会社)
環境中有害物質の分析業務や研究所の立上げ・設計、MLAP認定・ISO17025試験所認定の取得などに従事。

2011年からは東日本大震災に伴う放射線・放射能の調査・測定・分析体制の立上げ、2012年には遺棄化学兵器処理に関わる環境管理のコンサルティング業務を統括。

ユーロフィングループの傘下に入ってからは、ユーロフィンジャパン全体の環境・食品部門の品質管理を行い、現在はPFAS分析の立上げや国内分析法・EPA Method・ISO法等の導入を指導。

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